菌ハンターとは

 菌ハンターとは、いろいろな材料から人類の役に立つ微生物を捕まえる人のことです。微生物は人類は生きられない海の底から高山、熱帯から氷河地域までいたるところに住んでいます。

 大村智博士に率いられた北里大学の研究グループは静岡県川奈ゴルフ場の近くの土壌からStreptomyces avermitilisという新しい放線菌を発見しました。この放線菌が作るアベルメクチンという物質が寄生虫を効果的に抑えることが分かり、それから抗寄生虫薬イベルメクチンが生まれました。イベルメクチンはアフリカ人の失明原因であるオンコセルカ症の特効薬になり、無償提供されて多くの人々を失明から救いました。この放線菌の発見者の大村智とイベルメクチンを開発したメルク社のウイリアム・キャンベルはこの功績により2015年にノーベル賞を受賞しました。

 微生物が作る有機化合物が薬になった例は多くあります。古くはアレクサンダー・フレミングはアオカビが抗生物質を作ることを突き止め、多くの病気から人類を救うことになるペニシリン開発の基礎を作りました。この発見は全くの偶然で、黄色ブドウ球菌の培養シャーレにアオカビの胞子がコンタミとして入りそれが生育して黄色ブドウ球菌の増殖を抑えたことを見て研究を始めたそうです。

 薬以外でも微生物は多くの場面で人々の役に立っています。発酵食品は微生物の働きがなければできません。酒、ビール、ワイン、焼酎、パン、ヨーグルト、納豆、いづれもそれ用の微生物がいなければ米、麦芽汁、ぶどうジュース、非発酵パン、牛乳、煮豆のままです。酵母や乳酸菌、納豆菌がぶどう糖、乳糖、蛋白質を別の成分に変えてゆきます。肉眼では見えない小さな生物が大きな仕事をします。

 世の中にはまだまだ知られていない微生物がたくさんいます。どのような働きをするかわかっていない微生物がたくさんいます。菌ハンターは夢を見ます。新しい菌を見つけること。新しい物質を作ること。世の中に役に立つ菌を見つけることなど。身近なところでも新しい菌は隠れています。培養条件によって見つけることができない菌もたくさんいます。

 菌ハンターになるには基本的な菌の取り扱い技術が必要です。培養、純粋分離など微生物の取り扱い技術を身につけて菌ハンターを目指してみませんか。